特に明け方付近。それを文章で記録しておこうというコーナーです〜
「今日はちょっと迎えには行けないよー!」
母親はそう言って電話を切った。
上司との出張を終えた帰り道。
地元の近くに来ていたので、たまには実家にでも帰ろうかと思った僕は、実家の最寄り駅まで迎えに来てもらえるか頼んだのだった。
僕の実家は、大雄山線というローカル線の塚原駅という小さな無人駅から、さらに小一時間は歩かないと辿り着かない山間の集落である。なので車で迎えに来てもらいたかったのだが、あっさり断られてしまった。
でも、なぜだか久しぶりに塚原駅で降りてみたくなった僕は、迎えが無いのを承知で改札を出た。もしかしたらバスで帰れるかもしれない。
線路を渡り、その先の交差点を渡った左手には老舗の生花店がある。もう何十年も変わっていない。その先にバス停があるのだ。気がつけば当たりはもう薄暗くなり、小雨が降ってきた。
すると生花店の向かい側に、ハッと見慣れない赤提灯が視界に飛び込んで来た。
「前はこんな店無かったぞ…いつの間にできたんだ。」
迷う事無くその赤提灯に近づいて行った。
どうやら、古民家の庭先に建てた焼き鳥屋台のような小屋らしい。プレハブのような質素な造りだが、そこから炭火の良い匂いが漂ってくる。
僕と同じく、電車から降りてそのままこのお店にやって来る人が数名いた。仕事が終わり、帰宅前にここで一杯やるのが楽しみなんだろう。みんな一人客だ。
良い店だと思った。
カウンターに座ると、おばさんが一人でちゃきちゃきと切り盛りしていた。
すると、スライスした赤身の肉に塩をまぶした小皿が出てきた。
「そこの炭に入れて焼いて食べるんだよ。」
テーブルの脇に、赤く灯った炭を敷いた鉄板がある。
どうやらこの中に肉を突っ込んで焼いて食べるのがこの店のスタイルらしい…
ひとしきりの疑問は巡ったが、すぐに言われた通り肉を炭の隙間に突っ込んで焼けるのを待った。
ひとしきりの疑問は巡ったが、すぐに言われた通り肉を炭の隙間に突っ込んで焼けるのを待った。
ふとカウンターに目をやるとさっきのおばさんはいなくなり、息子と思しき男性が一人で忙しそうに焼き鳥を焼いていた。
勝手に同じ歳だと思った僕は、彼に話し掛けた。
「そこの古民家、雰囲気ありますね~。」
男性は串を焼き回しながら答える。
「母方のばあちゃんの家なんですよ。」
やはりさっきのおばさんの息子だ。
僕はさらに突っ込んだ。
「駅から近いし、ゲストハウスでもやったらいいじゃないですか~!」
男性は、こちらが申し訳無くなるほどの不器用な苦笑いをしながら答えた。
「どうですかね~…」
そう言ってる間に焼き鳥が焼けたようで、目の前に一本だけ出された。取り急ぎといった感じだ。
それは正肉のようだったが、まるで銀杏のように小さく痩せこけて、一個一個の間に隙間が空いていた。
しかも、タレの上に塩がかかっており、どちらの味付けにしたいのかが、分からない。
「いただきます!」
僕は平静を装って食べた。
予想通り、全く美味しくなかった。
肉はしなびて小さい上に焼き過ぎてパサパサしており、案の定タレと塩の味が両方するという奇天烈な焼き鳥だった。
「うん。おいしい!」
僕は男性の顔を見ずに、そう言った。
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